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東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)110号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三十四年一月三十日、「貯蔵可能樹脂紛末」につき、一九五八年一月三十日、アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願をしたところ、昭和三十六年六月十四日、拒絶査定を受けたので、同年十月二十日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第三、〇一四号事件として審理されたが、昭和四十年五月三十一日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その騰本は、同年六月十二日原告に送達(出訴のための期間は、同年十月十二日まで延長)された。

二 本願発明の要旨

エポキシ樹旨とそれの硬化剤とからなる貯蔵可能な樹脂紛末において、この紛末は任意所望の形状の加熱された作業片に、流動化床被覆のごとき公知の吹付け法又は被覆法により適用できる、急速に熱硬化性の、一時的に熔融可能な常態で固体の、脆い、個々ばらばらな粒子の集団であり、しかも、この紛末は、(1)約六〇°F以上の融点を有する1.2―エポキシ樹脂と、加熱するとこれと相互反応して不融性の生成物を与える割合の潜在的、熱活性化可能硬化剤と、所望ならば濃化剤として働く充填材と、さらに所望ならば上記硬化剤及び上記エポキシ樹脂間の反応速度を増加する触媒作用を及ぼす促進剤とを、半流動性塊を生ずるに丁度充分な温度で、かつ、混合物を半硬化状態又は熱硬化不融状態に変えることなしに均質な熔融可能混合物を得るに丁度充分な時間、一緒に混合し、(2)得られた混合物を急速に冷却して、室温で安定な固体の融解可能な形態にし、(3)得られた固体生成物を、次に、約四二〇〜四〇ミクロンの範囲内の粒子サイズを有する粒状形に変えることにより製造されたものであり、しかも、上記紛末は約一五〇℃の炉中で加熱すると三〇分以内に硬化不融状態にまで急速に進行でき、かつ、約一五〇℃での融着の間約一二五mm以下の流出因子を有することを特徴とする貯蔵可能樹脂紛末。

三 本件審決理由の要点

本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、特公昭三二―七四四一号公報(以下「引用例」という。)には、エポキシ樹脂と硬化促進作用を有する有機酸無水物とを混合し、加熱して溶射可能な程度の半硬化状態となし、冷却後これを粉砕することからなる溶射用エポキシ樹脂の製造法が記載されており、この方法で用いるエポキシ樹脂、加熱して得られる半硬化の状態あるいは目的生成物の粒子の大きさ及び性質等については、引用例の記載は多少不明確であるが、用いられるエポキシ樹脂は、1.2―エポキシ樹脂が最も普通のエポキシ樹脂であり、大部分のエポキシ樹脂は融点が六〇°F以上であることからみれば、使用するエポキシ樹脂は本願発明で用いられるエポキシ樹脂と同一であると認められ、また、引用例記載の方法でいう半硬化状態とは溶射時の加熱のみで硬化が促進され、溶射後放置して硬化が完了する程度のものであることは明らかであり、かつ、硬化剤の量、加熱温度、加熱時間、エポキシ樹脂の平均分子量の間には一連の関連性があることが説明され、しかも、硬化剤の量を変化した場合の硬化状況も示されており、そして、粉砕された生成物の粒子の大きさあるいは性質は、引用例記載の方法が溶射法で吹きつけて皮膜を形成するための樹脂紛末を得ることを目的としており、しかも、大型物体あるいは移動不可能な物体にも適用できる樹脂紛末であることが説明されていることと、本願発明において粒子の大きさ及び粒子の流出因子を限定したことが不明瞭であることからみれば、本願発明の樹脂紛末と引用例記載の方法の目的樹脂紛末との間には明確な差異はない。したがつて、本願発明と引用例記載の発明とは、発明の目的、得られる生成物及び生成物を製造する方法の点に本質的な差異はなく、本願発明は、引用例の記載から当業者の容易に考えられる程度のものである。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、本願発明と引用例記載の発明とは、得られる生成物及びこれを製造する方法の点において本質的な差異はないと認められるとした点において認定を誤つたものであり、これを前提として本願発明をもつて引用例記載の発明から容易に考えられる程度のものであるとした点において、別断を誤つたものといわざるをえない。すなわち、

(一) 組成について

本願発明及び引用例記載の発明において使用するエポキシ樹脂が同一のエポキシ樹脂であることは当事者間に争いがないところであるが、本願の特許願書及び訂正書によれば、本願発明は、室温において貯蔵可能であるが、また、急速に熱硬化する、強靱、不熔融性であり、滑沢で、かつ、均一な非熱可塑性、耐溶媒性を有する物品の保護的樹脂被覆の施用に適する樹脂紛末を提供することを目的とするものであり、この目的を達するため、本願発明における樹脂紛末は、未硬化エポキシ樹脂と潜在的熱活性化硬化剤との混合物紛末であるに対し、引用例記載の発明は、硬化のための熱処理を必要としない、すなわち常温において硬化する熔射用エポキシ樹脂の製造法に関するものであり、その発明における樹脂紛末は、半硬化させたエポキシ樹脂と硬化促進作用を有する有機酸無水物硬化剤との混合物紛末であることが明らかであるから、両者は、その組成において相違するものといわざるをえない。被告は、この点につき、両者で使用するエポキシ樹脂と硬化剤とが同一であり、かつ、紛末の製造法にも差異がない以上、生成物である樹脂紛末に差がある筈はなく、未硬化紛末混合物と半硬化紛末混合物とは単なる表現上の差異にすぎない旨主張するが、両者はその使用する硬化剤においても、また、その製造方法においても必ずしも同一ではないことは、前掲各証拠に照らし明らかであるから、被告の右主張は理由がないものというほかはない。

(二) 硬化剤について

本願発明の樹脂紛末は、一五〇℃で三〇分以内に硬化不融性となる、いわゆる熱時熱硬化性のものであり、熱時には迅速に硬化するが、常温では硬化せず、したがつて、長期貯蔵に耐えるものであるところ、引用例の樹脂紛末は、とくに、その発明の名称中の「硬化のための熱処理を必要としない……」との文言並びにその「発明の詳細なる説明」の項の「熔射法に於ても常温硬化が非常に要望されている。」及び「熔射後常温に於て暫く放置すれば硬化が完了し……」なる旨の記載に徴すれば、常温硬化性のものであることは明らかであり、したがつて、長期貯蔵に適しないものであることもまた明らかなところということができる。被告は、この点につき、熔射時の加熱によつて硬化が促進されたものは、常温においてさえ硬化が完了するのであるから、さらに加熱されれば一層速やかに硬化するのは当然であるから、引用例の生成物も熱時熱硬化性である旨主張するが、引用例の生成物を熱時熱硬化性と称するかどうかは暫く別としても、その硬化性は、本願発明の樹脂紛末と異なることは、被告の右主張自体に徴しても明らかであるから、両者の硬化性には差異があり、これに伴い、長期貯蔵に耐えるかどうかの点において差異があるものといわざるをえない。

(三) 流出因子について

本願発明における一五〇℃において一二五mm以下という流出因子は、流動化床法に適用するための要件として規定されたものであり、それ以上の数値のものは不適当とされることは明らかであるところ、引用例の熔射法においては、流出因子について何らの限定はない。被告は、流出因子は、塗装を均一に行なうために当然考慮すべき事項であり、本願発明において、この因子を限定したこと自体には、格別の技術的意味はない旨主張するが、本願発明におけるこの限定は、流動化床法において加熱した加工品の表面に均一な塗装をするため必要な条件として規定されたものであること前説示のとおりであるから、被告の右主張は理由がないものといわざるをえない。

(四) 粒度について

流動化床法に適用するためには、樹脂紛末は、空気中に流動し、加熟された対象物に接触して迅速に融解する程度の粒子のものでなければならないことは、この種塗装技術上当然の事項に属すると解されるところ、本願発明においてはその条件を満足すべき粒度として、約四二〇〜四〇ミクロンを選定したことが明らかであるから、本件審決が本願発明における粒度限定の意義が明瞭でないとしたのは、この点に関する技術的意義を正しく認識したものということはできない。引用例の熔射法も、吹付け法の一つであることは明らかであり、したがつて、その樹脂紛末も微粒子であろうことは、容易に推測しうるところではあるが、引用例には粒度について何らの限定的な規定のないことは被告の明らかに争わないところであるから、この点において両者に差異がないものとすることはできない。

(五) 樹脂紛末の用法について

本願発明の樹脂紛末は流動化床法に適用され、引用例における樹脂紛末は熔射法に適用されるものであることは、明らかであるから、両者における樹脂紛末は、その用法を異にするものとみるを相当とする。被告は、流動化床法も公知の吹付け法の一つの形式にすぎず、本願明細書においても、「流動化床法のごとき吹き付け法又は被覆法」といつているのであるから、本願発明の樹脂紛末は流動化床法のみに使用されるとすることはできず、吹付け法の一種である熔射法に使用される引用例の樹脂紛末と用法において差異はない旨主張するが、熔射法が吹付け法の一種であるとしても、その技術内容からいつて、それが本願発明の要旨にいう「流動化床法の如き公知の吹き付け法」に含まれるものとは、到底、解しえないから、被告の右主張は採用することはできない。

以上(一)ないし(五)において詳説したとおり、本願発明と引用例記載のものとは、その組成その他において相違するものであるから、両者をもつて、本質的に差異はないと断ずることは当を得ないものといわざるをえない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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